桜と青春と小倉城
4月8日、九天玄氣組のお花見で小倉へでかけた。参加者はタナヒロさん、小石丸さん、多香洲さん。昼食時のみ奥田さんも下関からかけつけてくれた(朗読会チケットを持参してくださった←※「プロジェクト・海」名文群読・朗誦舞台 海峡叙事詩「平家物語」/5月3日、4日/於)下関市民会館中ホール)。
カラフルお化け商業施設「リバーウォーク」5階で中華料理に舌鼓をうちつつ、お茶摘みの話やブログのこと、古代九州の話や編集学校の稽古の進捗など、それぞれ思い思いに語り合った。お茶摘みの旅は、タナヒロさんがきっちり進めてくれている。こちらも楽しみ。
その後、徒歩で5分程度先にある北九州市立文学館へ。移動がてら小倉城内の桜を観賞しながら歩いていると、異様な熱気に包まれたオジさんの群れに遭遇。どうやら金髪モデルの撮影会のようだ。オジさんは30人はいただろうか、レンズ越しに熱視線を注いでいる。この日の寒気はここに端を発していたのか。
◆作家の青春と苦悩のリテラシー
北九州市立文学館(館長は佐木隆三氏)の特別企画展「作家の自筆原稿でたどる<文学・青春>展」を観賞する。ここで内倉さんとも合流。
この企画展、なかなか見応えがある(紹介してくださった小石丸さんに感謝)。タイトルどおり作家の自筆原稿が一堂に揃っているのだが、展示物には共振するものがまことに多い。自筆原稿だけではない。“誰か”にあてた手紙や葉書などもあり(当の本人はこんな風に人目にさらされるなんて考えてもみなかっただろうけれど)、そこには一人の人間としての苦悩の姿が見え隠れする。
特に手紙や葉書は、その筆跡に作家たちの生の声が刻まれていて、なにやら切ない。いまにも粉々に壊れてしまいそうな心のふるえや、それとは裏腹にエネルギーを持て余している様子、若さゆえの苦悩や葛藤が作家の呻き声とともに埋め込まれている。
目的などないけれど、とにかく誰かに何かを届けてみたい、いてもたってもいられない。そんなどうしようもない想いだけをくどくどと綴った立原道造の葉書なんて、めめちーナーと思いつつ、そういうことあるんだよね…と同情をよせてもみたりした。
川端康成や太宰治などの著名な作家の原稿はメインに飾られていたが、個人的には梅崎春生、中原中也(と小林秀雄)、山田詠美、佐多稲子、倉橋由美子の直筆原稿には目を奪われた。特に茨木のり子の「自分の感受性くらい」や新川和江「私を束ねないで」の生原稿には感激した。この二つの詩は3年程前に出会って以来の“お守り”だったのだ。前者は叱咤を、後者は限りない共感を抱いていた。多香洲さんも感銘を受けていたようだ。
この文学館には共有スペースや個室もあって、これからいろいろと利用できそうだ。二階には北九州の文学年表と著者の作品がズラリと展示されている。こちらもいつか時間をかけて見てまわりたい。企画展は5月6日(日)まで開催中。
(※下記に、展示された作家の名前とともに、千夜千冊とのリンクを貼ってみた。部立のテーマと千夜千冊の方向性が合致するとは限らないけれど、関係の線のようなものも見えてくるかもしれない)
◆西行の桜と祇園太鼓と
そのあと、文学館の斜め向かいの「松本清張記念館」併設の喫茶店のテラスへ移動し、それぞれに持ち寄ったお勧めの本などを紹介しあった。
内倉さんは斉藤孝の三色ボールペンのマーキング本、多香洲さんはクロニクル編集術で使っている歌謡史本、タナヒロさんは武光誠の日本史本、小石丸さんは蜷川実花の写真集(虫の気持ちになって撮影したという貴重本)と茨木のり子の「詩のこころを読む」。さすが編集学校の面々、それぞれに編集がきいている。私はというと、千夜千冊から「桜」を引いてきた。西行である。
千夜千冊753夜「山家集」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0753.html
この千夜千冊の一夜を、みんなで声に出してかわるがわる読んだ。
今、目の前に見える桜の木、それを眺める私たちの風景と、校長の千夜千冊が重なる。
昔、校長は桜が苦手だったという。満開に咲く桜がうるさく感じて好きになれない。しかし、あることをきっかけに校長の桜の見方に変化が起きたという。その一節を『日本数寄』からピックアップして、西行のあとに音読した。
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ところが、いつのまにか桜に惹かれていた。
そのきっかけを総じて思い出すことはむつかしいのだが、ひとつだけ点景の記憶としてはっきりしているのは、久々に京都に戻り旅のようなことをしたとき、会いたい友人との時間がうまくあわず、やむなく好きな東福寺を訪れてぶらぶらと塔頭のあれこれに寄ったりしていたら、ある方丈で茶をよばれることになり、その庭に一本の大きな桜をぼんやりと見ることになったことである。
四月に入っていたとおもう。風も吹いていた。
しかもいささか時間をもてあましていたのがよかったのだろう。その一本の桜を眺めていると、実にいろいろなことがおこっていることが見えてきた。
まず、その桜のどこを見るかによって、桜の見え方がちがっていた。上のほうを見れば、青空に桜の花びらが透けている。中ほどを見ていると、まるで呼吸をしているようにいくつもの花塊がわさわさと動いている。幹を見ようとすると、これはものすごく野太いひたむきの艶なのである。
もっと陶然とさせられたのは、なんともいえず花びらが散ってくることだった。この間隔がいかにも絶妙で、しかも一枚一枚が好き勝手に降ってくる。ひとつとして同じ降りかたがない。それを見ているとまったく見飽きない。
あれ、こんな体験をかつてしたことがあったっけという気持になった。散華の美というものではない。もっと明るいものだった。それなのに妙に気分がくらくらと酪酊していった。…
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みんな「うんうん。この散っていくところがいいのよね…」と目を細めて、目前の桜を見上げている。今日という日には、皆が皆、なにかにそっと導かれたような、そんな心地よさを感じているようだった。
すると、一枚の花びらがテーブルの上にひらひらと舞い降りてきた。その花びらを『日本数寄』の「桜と時代」のページに挟んでいる。
花見といえば、どんちゃん騒ぎをする人が多いが、隙間なく咲き乱れる桜は人を狂わせる力があるのだろう。花狂いは人狂い。
桜は散り際こそ愛しい。散った花びらはどこへいく? ふと目をやると、小倉城のお堀には“花いかだ”が浮かんでいる。
このいかだにのって、旅をしてみたいもんですね。
もうすでに、旅に出ているのかもね?
♪お花見土産♪
北九州市立文学館「作家の自筆原稿でたどる<文学・青春>展」と千夜千冊リンク集
※★=千夜千冊リンク
■第一部 愛と性
川端康成★/堀辰雄★/伊藤整/伊藤静雄/黒田三郎/立原道造/石坂洋次郎/坂口安吾★/田宮虎彦/水上勉★/三島由紀夫★/石原慎太郎/吉行淳之介★/三浦哲郎/新川和江/清岡卓行/古井由行/黒井千次/中上健次★/宮本輝/俵万智★/村上春樹/藤野千夜
<千夜千冊>
★川端康成「雪国」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0053.html
★堀辰雄「風立ちぬ」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0641.html
★坂口安吾「堕落論」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0873.html
★三島由紀夫「絹と明察」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1022.html
★吉行淳之介「原色の街・驟雨」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0551.html
★水上勉「五番街夕霧楼」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0674.html
★中上健次「枯木灘」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0755.html
★俵万智「サラダ記念日」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0312.html
■第二部 思想と社会
葉山嘉樹/小林多喜二/徳永直/中野重治/佐多稲子/倉橋由美子★/柴田翔/小田実/高橋和己/三田誠広
<千夜千冊>
★倉橋由美子「聖少女」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1040.html
■第三部 戦争と青春
堀田善衛★/加藤道夫/中村真一郎★/福永武彦/野間宏/梅崎春生★/椎名麟三/武田泰淳★/田村泰次郎/島尾敏雄/大岡昇平★/吉本隆明★/鮎川信夫/田村隆一/安岡章太郎/丸谷才一
<千夜千冊>
★堀田善衛「定家明月記私抄」正・続
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0017.html
★中村真一郎「木村蒹葭堂のサロン」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1129.html
★梅崎春生「幻化」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1161.html
★武田泰淳「ひかりごけ」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0071.html
★大岡昇平「野火」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0960.html
★吉本隆明「芸術的抵抗と挫折」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0089.html
■第四部 青春彷徨
三好達治/林芙美子★/梶井基次郎★/中原中也★/小林秀雄★/尾崎士郎/高見順/太宰治★/織田作之介/原口統三/中村稔/入沢康夫/谷川俊太郎/大江健三郎/井上靖★/遠藤周作/茨木のり子/五木寛之★/庄司薫/村上龍/高樹のぶ子/山田詠美/林真理子/高橋睦郎★/平出隆/平野啓一郎
<千夜千冊>
★林芙美子「放浪記」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0256.html
★梶井基次郎「檸檬」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0485.html
★中原中也
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0351.html
★小林秀雄「本居宣長」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0992.html
※中原中也と小林秀雄の原稿と手紙類が、同じガラスケースのなかに展示されていた。泰子という女性をめぐって恋愛沙汰を起こした二人。こんなところでもキマヅイ雰囲気…。
★太宰治「女生徒」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0507.html
★井上靖「本覚坊遺文」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0156.html
★高橋睦郎「読みなおし日本文学史」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0344.html
★五木寛之「風の王国」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0801.html
- by めろん組長
- at 05:17
2007年04月09日

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